靴屋の子が裸足で12年
クライアントのサイトは何十と作ってきた。
デザインを起こし、コードを書き、サーバーを立て、公開する。12年間、それで飯を食ってきた。名刺交換のたびに「Webサイトはありますか?」と聞かれ、毎回同じことを答える。
「すみません、自社サイトはまだないんです」。
Web制作を生業にしている人間が、自社サイトを持っていない。靴屋の子が裸足。業界の定番ジョークだが、12年も続くと笑えなくなってくる。
理由は単純だ。クライアントの仕事が先。自社サイトは「時間ができたら」。時間はできない。12年間ずっと。
じゃあAIと作ればいい
2026年、AIエージェントチームが動くようになった。
ふと気づいた。クライアントワークと同じ品質を、自分のために1日で出せるんじゃないか。
外注する選択肢もあった。だが、12年間クライアントの制作物に「ここ、もうちょっと」と言い続けてきた人間だ。他人に任せて黙っていられる自信がない。
実験も兼ねて、自分で作ることにした。
ブルータリストを選んだ理由は「AI都合」
デザインはブルータリストにした。装飾を削ぎ落とし、タイポグラフィとコントラストで勝負するスタイル。
おしゃれだから選んだわけじゃない。AIと一人で作るのに、最も相性がいいからだ。
- 画像素材が不要。ストックフォトを探す時間がゼロになる
- コンポーネントがシンプル。AIが生成するコードの精度が跳ね上がる
- コピーの力がそのまま伝わる。装飾が邪魔をしない
デザインの選択肢としてブルータリストを選んだのではなく、制作体制の制約から逆算してブルータリストに辿り着いた。制約がデザインを決めた。
フォントは3つだけ。見出しにAnton、本文にIBM Plex Mono、日本語にNoto Sans JP。アクセントカラーはページ読み込みのたびにランダムで変わる仕掛けにした。5色からJavaScriptで選択し、ロゴも連動して切り替わる。
遊び心と「毎回違う表情を見せる」というブランド体験。ブルータリストは無愛想なスタイルだが、無愛想なサイトにしたかったわけじゃない。
技術選定は3秒で終わった
Astro + Tailwind CSS v4 + Cloudflare Pages。迷う余地がなかった。
Astroは静的サイト生成に特化している。コーポレートサイトにSPAは不要。HTMLを吐くだけでいい。MarkdownでContent Collectionsが使えるから、ブログ管理も完結する。
Tailwind CSS v4はCSS-firstに生まれ変わって、設定ファイルが消えた。@themeディレクティブでデザイントークンをCSS内に直接書ける。セットアップの速さが段違いだ。
Cloudflare Pagesはgit pushで自動デプロイ。CDNも無料。選ばない理由がなかった。
午前と午後で全部終わった
午前中にやったこと:
- サイトマップとページ構成をAIと決定
- デザインシステム(カラー、フォント、スペーシング)をCSSで定義
- Layout、Header、Footer、SEOコンポーネントを生成
- トップページを構築
午後にやったこと:
- 7つのサブページを一気に作成
- 日英切り替え(i18n)を実装
- ブログ機能を追加
- デプロイ、ドメイン設定
AIに任せたのはコーディングと構造化。やったのはコンセプト、コピー、ディレクション。
ポイントは、最初にデザインシステムを厳密に定義したこと。CSS変数にフォント、間隔、色のルールを書き込んでおけば、AIはそのルールに従ってコンポーネントを量産する。ルールが曖昧だと、ページごとにデザインがブレる。
12年間クライアントに言い続けてきたことだ。「最初にルールを決める」。
| 項目 | 値 |
|---|---|
| 総ページ数 | 20(日英各10) |
| 開発期間 | 1日 |
| エンジニア | 0人 |
| デザイナー | 0人 |
| ホスティング費 | 月額0円 |
| Lighthouse Performance | 95+ |
できなかったこと
万能ではない。正直に書く。
コピーライティングはAIに任せきれなかった。ANDOORのトーン「断言・短文・実体験ベース」を再現するには、人間が書いて見せる必要があった。AIは「それっぽい文章」は書ける。だが「この会社の声」は書けない。
画像はカバーできなかった。ロゴやOGP画像はFigmaで自作した。テキストベースのAIではどうにもならない領域。
レスポンシブの微調整は目視が必要だった。大枠はAIが作れるが、768px以下の細かい詰めは人間がやるしかなかった。
「1日で作れた」の裏には「12年分の判断力」がある。デザインシステムを定義できるのも、コンポーネント分割の粒度を決められるのも、制作経験があるからだ。
靴ができた
12年間、裸足だった靴屋の子が、ようやく靴を作った。1日で。
これは「AIがすごい」という話ではない。 10年以上Web制作をやってきた人間が、AIをツールとして正しく使った結果だ。経験がなければ、AIに何を指示すればいいかすらわからない。
逆に言えば、経験さえあれば、もうチームを組まなくても1日で本番レベルのサイトが作れる。
12年間の「後回し」は、半日で片付いた。残りの半日は、ブログの第1稿を書くことに使った。靴を作った日に、もう走り出していた。