人柱というコスト
AIツールの進化は速い。異常に速い。
Claude Codeだけでも、週に数回はアップデートが入る。新しいフラグ、新しいフック、新しいMCPサーバー。Xを開けば誰かが「この設定が最強」と言い、翌日には別の誰かが「こっちのほうがいい」と言っている。
問題は、それを検証する人間が必要だということだ。
AIで業務効率は劇的に上がった。コーポレートサイトを1日で作り、パワポをコマンド一発で生成し、壁打ちから戦略設計までAIと走れるようになった。手は空いたはずだ。
空いた手は、AIツールのキャッチアップに吸い込まれた。
新しいプロンプト技法を試す。設定ファイルをいじる。動かない。調べる。直す。動いた。翌週また変わる。この無限ループに、毎日1〜2時間が消えている。「AIで速くなった」分の時間を、AIの面倒を見ることに使っている。
自動化したいのは業務じゃない
AIエージェントチームと壁打ちしていて、気づいたことがある。
わたしの仕事はトリガー型だ。クライアントからの依頼が来て動く。定型業務はほとんどない。自動化する対象がない——はずだった。
本当に自動化したかったのは、AIの進化そのものだった。
Claude Codeの新機能を誰かがXに投稿する。それを見つけて、内容を評価して、試す価値があるか判断して、実装して、テストして、使えるなら残す。使えなければ捨てる。
このフロー全体を、AI自身に回させればいい。人柱を、自動化する。
設計: 監視→評価→提案→承認
作ったシステムの全体像はこうだ。
X API v2でリアルタイム監視。 Claude Code、Openclaw、CLAUDE.md、MCP——関連キーワードを含むポストを1時間ごとに収集する。検索クエリはJSON設定ファイルに外出ししてあるから、コードを触らずにチャネルを増やせる。
スコアリングで優先度をつける。 基礎スコア0.3に、キーワードマッチ(+0.1/個)、エンゲージメント(いいね・RT数に応じた加算)、ノイズフィルタ(求人・暗号通貨系は減点)を重ねて0〜1のスコアを算出する。0.7以上が「提案候補」になる。
クラスタリングでトピックの集中を検知。 異なるアカウントが同じキーワードで投稿していれば、それはトレンドだ。3件以上で+0.2、5件以上で+0.3、10件以上で+0.4のブーストがかかる。個別の投稿では見えないシグナルを、群として捉える。
Discordに提案が飛ぶ。 スコアが閾値を超えた投稿は、Embed付きのメッセージとしてDiscordチャンネルに投稿される。承認・却下ボタンが付いている。英語の投稿は自動で日本語訳が添えられる。
わたしがやるのは、ボタンを押すだけだ。
1セッションで全部作った
構想から稼働まで、1セッションで完了した。
正確に言えば、Discordのボタン基盤と承認ワークフローは前のセッションで作ってあった。この日やったのは、X API連携、スコアリングエンジン、クラスタリング、マルチチャネル対応、Discord投稿、自動翻訳——コアロジックの全部だ。
技術スタックはBun + TypeScript。X API v2のRecent Search エンドポイントを叩いて、HeartbeatRunnerの定期チェックとして登録する。状態はJSONファイルに永続化。提案はSQLiteに保存され、Discordのインタラクションと紐づく。
特別なことは何もしていない。 APIを叩いて、スコアを計算して、閾値で分けて、通知する。やっていることはシンプルだ。重要なのは、これを「やる」と決めてから動くものが手に入るまでの速度だ。
チャネルは4つに広がった
最初はClaude Code関連だけを監視していた。動いているのを見て、欲が出た。
同じ仕組みで、自分の関心領域を全部カバーできる。
最終的に4チャネルを設定した。
- Claude Code / AI開発ツール: Claude Code、Openclaw、CLAUDE.md、hooks、MCP
- 技術スタック: Astro、Bun、Vercel、Tailwind CSS
- 広告・マーケ業界: 代理店離れ、インハウス化、クリエイティブAI
- デザイン・UI/UX: UIトレンド、リブランド、デザインシステム
各チャネルに専用の検索クエリ、キーワード辞書、ノイズフィルタを設定してある。config/x-trends-channels.jsonを編集するだけで、チャネルの追加・修正ができる。コードは一切触らない。
初回フェッチで216件のツイートを収集。91件が高スコア。20のトピッククラスタを検出。動いている。
提案が勝手に飛んでくる
Discordに通知が来る。Embed付きのカードに、投稿内容、スコア、キーワード、チャネル名が並んでいる。承認ボタンと却下ボタン。英語の投稿にはClaude Haikuによる自動翻訳が添えられている。
判断に必要な情報が全部揃った状態で、ボタンを押すだけ。 検索する時間ゼロ。読む時間10秒。判断3秒。
実際に最初の提案が来たとき、楽天のインハウスデザインチームのAI活用術という記事が上がってきた。「Adobe」の文字が見えた瞬間、即却下した。AdobeのAIを実務で使っている人間を見たことがない。この判断に3秒。
こういうフィルタリングこそ人間の仕事だ。AIは集めて評価する。人間は「これは本物か偽物か」を一瞬で嗅ぎ分ける。
これがAI導入の壁の本体だった
AIを業務に導入できない人が多い。ツールは安い。ドキュメントもある。使えば速くなるのは明白だ。
それでも導入が進まない理由は「人柱コスト」だ。
AIツールは毎週変わる。先週のベストプラクティスが今週は古い。新しい機能を試すには時間がいる。試して合わなければ戻す時間もいる。このメンテナンスコストが、導入メリットを食い潰す。
「AIを使えば10時間の作業が1時間になる」は事実だ。だが「AIを最新に保つのに毎週3時間かかる」も事実だ。差し引き6時間の得。悪くはないが、9時間の得を期待していた人は裏切られた気分になる。
人柱を自動化すれば、この3時間がゼロになる。 正確にはゼロではない。提案を見てボタンを押す時間はある。だが、Xを巡回して記事を読んで試して評価する3時間が、ボタン1回10秒に圧縮される。
武器の進化を止めるな
作業を自動化する話は世の中にあふれている。請求書の自動発行、メールの自動返信、レポートの自動生成。
武器の進化を自動化する話は、まだほとんどない。
わたしがやったのは、AIツールの最新情報を収集し、評価し、提案するパイプラインを、AIに構築させたことだ。武器が自分で進化の種を探してきて、使い手に「これどう?」と聞く。使い手はGo/No-Goを出すだけ。
これは単なる効率化の話ではない。AIと人間の役割分担の、一つの答えだ。
AIは広く、速く、休まず探す。人間は「本物か偽物か」を一瞬で判断する。このループが回り続ける限り、武器は勝手に進化する。
構想から稼働まで1セッション。使ったのはX API v2、Bun、TypeScript、Discord.js、Claude Haiku。特別な技術は何一つない。
必要だったのは、「人柱を自動化する」という発想だけだった。