止まった
金曜日の夜、手が止まった。
コードが書けなくなったわけではない。アイデアが枯渇したわけでもない。クライアントから「ストップ」がかかったわけでもない。
ツールの週間利用上限に達した。
Claude Code。わたしのAIエージェントチームの中核を担うツール。これが「今週はもう使えません」と言ってきた。
正直に言う。才能の限界でも、締切のプレッシャーでも、クライアントの無茶振りでもない。2026年、わたしの生産性を止める最大の敵は、weekly limitだ。
加速した先に見えた壁
少し前までは違った。
一人で全領域をやっている以上、ボトルネックは常に「自分の手の速さ」だった。デザインもコードもインフラも企画もコンサルも、全部自分の手が動かなければ進まない。寝れば止まる。疲れれば遅くなる。人間の身体が制約だった。
AIエージェントチームを組んでから、その壁が消えた。
要件定義からモックアップ作成、コーディング、テスト、デプロイまで。12年かけて一人で回してきた全工程を、AIが並列で走らせてくれる。やろうと思えば、1日で以前の1週間分が終わる。
そうして加速した先に、別の壁がある。
APIのレートリミット。トークンの消費上限。月額プランの利用枠。名前はいろいろあるが、本質は同じだ。「あなたの使い方は、想定された使い方より速すぎます」というシステムからのブレーキ。
これは「課金すれば解決」ではない
「上位プランにすればいいじゃないか」と思うだろう。もちろんそうした。MAX Planにもした。Team Planも試した。
それでも上限はある。
なぜなら、料金プランの設計は「普通の使い方」を想定しているからだ。1日にちょっとコードを書いて、たまに質問して、週に数回まとまった作業をする。そういうユーザーモデルに基づいて、利用枠が設定されている。
わたしの使い方はそうではない。朝から晩まで、AIエージェントチームに指示を出し続ける。一つのセッションで数万トークンが飛ぶ。複数のエージェントが並列で走る。設計、実装、レビュー、修正——全部がAI経由で回る。
「普通の使い方」の10倍は軽く超えている。 プランの上限が来るのは、むしろ当然だ。
制約が生む、不本意な「戦略的減速」
前の記事で「戦略的減速」について書いた。クライアントの意思決定速度に合わせて、あえてペースを落とす技術。あれは能動的な選択だった。
weekly limitによる減速は違う。受動的な強制停止だ。
木曜日までに今週分の作業を終わらせて、金曜の夜にリミットに引っかかる。月曜まで待つしかない。その間に他のことをやればいいと思うだろう。実際、やる。ドキュメントを書く。手動でできることを片付ける。戦略を考える。
だが、それは「AIなしでもできること」であって、「AIがあるからこそできること」ではない。最も価値の高い作業が、最初に止まる。
対策は泥臭い
美しい解決策はない。やっていることを正直に書く。
使い方を分散させる。 一つのツールに集中させない。Claude CodeとCursorとGitHub Copilotを使い分ける。API直接呼び出しも混ぜる。美しくはないが、一つが止まっても他で走れる。
消費を意識した設計をする。 「このタスクは何トークンかかるか」を感覚で掴んでおく。大量にトークンを食う探索的な作業は週の前半に。精密な修正作業は後半に。残量を見ながら配分する。燃料計を見ながら走るドライバーと同じだ。
「使わない時間」を作る。 思考の整理、戦略の設計、クライアントとの対話。AIに頼らない作業を意図的に挟む。これは逆説的に、AI利用時の精度を上げる。何を聞くか明確になるから、無駄な消費が減る。
どれも、本質的な解決ではない。 リミットが上がるか、使い方が変わるか、どちらかが必要だ。
速すぎるユーザーの孤独
この話をしても、大半の人はピンとこない。
「AIツールの利用上限に引っかかるほど使い倒している」という状態が、まだ一般的ではないからだ。「そんなに使ってるの?」という反応が大半で、「わかる、俺もだ」とはならない。
先頭を走る人間は、常にインフラの限界と先に衝突する。
インターネット黎明期、帯域を食い尽くしたのは一部のパワーユーザーだった。クラウドコンピューティングの初期、リソース上限にぶつかったのは最もヘビーに使った人間だった。今、AIツールで同じことが起きている。
ツール提供者も悪気はない。大多数のユーザーが快適に使える料金体系を設計している。問題は、その「大多数」の外にいる使い方をしている人間が、少数だが確実に存在することだ。
これはコストの話ではない
「もっと払えばいいだろう」と言われるかもしれない。実際、払う用意はある。
だが、「もっと払う」選択肢がそもそもないことがある。 最上位プランでもリミットはリミットだ。Enterprise契約をすればカスタム枠が設定できることもあるが、一人の人間にEnterprise契約は想定されていない。
面白い逆転が起きている。
かつてのボトルネックは「人を雇う金がない」だった。もっと手を増やしたいが、人件費が出せない。だからスキルを広げて一人で全部やるしかなかった。
今、AIが「人手」を代替した。コストは人件費の100分の1以下。金銭的な問題はほぼ消えた。
代わりに、「使用量の上限」が新しいボトルネックになった。 金を出しても買えない制約。時間が経てばリセットされるが、時間は買えない。
才能→金→人手→時間→利用上限。ボトルネックは、解消されるたびに一つ上の抽象度へ移動する。
月曜日が待ち遠しい
こんなことを言う日が来るとは思わなかった。
月曜日が来れば、weekly limitがリセットされる。また全力で走れる。AIエージェントチームをフルに動かして、クライアントワークを進め、自社プロダクトを磨き、ブログを書く。
「月曜が待ち遠しい」の理由が「仕事がしたいから」ではなく「ツールが使えるから」だという事実。 これが2026年の、AIと共に走る人間のリアルだ。
制約は常にある。変わるのは、制約の種類だけだ。
才能の壁は、12年の修練で超えた。資金の壁は、一人で全部やることで超えた。人手の壁は、AIエージェントチームで超えた。
次はweekly limitを超える番だ。 方法はまだ見えていない。だが、見えていない壁を超えてきたのが、これまでの12年だ。