Overview
Anthropicが「The Making of Claude Code」というオーラルヒストリーを公開した。2021年から2026年までの開発史を、当事者19人の証言で綴った一次資料だ。
読んで、手が止まった箇所が3つある。
作った側が「いま」と語る運用と、「次」と予言する構造。その両方に、外側の一人のアトリエが先に住んでいた。
The Making of Claude Codeとは何か
2026年2月から5月にかけて収録されたインタビュー集だ。共同創業者Ben Mann、Claude Code責任者Boris Cherny、RL責任者Shauna Kravecらが、社内ツール「clide」の時代からClaude Codeの爆発的普及までを語っている。
数字だけ拾っても濃い。Borisは「2025年冬には、自分のコードの100%がClaude Code製になった。手書きは1行もない」と証言する。1日88コミットという記述もある。
だが刺さったのは数字ではない。構造の話だ。
共鳴1: 「12体のClaudeの群れ」
RL責任者のShauna Kravecがこう語る。
“I have my whole swarm of twelve different Claudes running around—reading documents, updating things, pulling from Slack.” 12体のClaudeの群れを走らせている。ドキュメントを読み、更新し、Slackから情報を引いてくる。
モデルを訓練している本人が、12体の群れで仕事をしている。
こちらは16体で回している。役割を持ったAIたちが、調査し、実装し、レビューし、報告してくる。この体制で数ヶ月、実案件を出荷してきた。
フロンティアの中の人の運用と、東京の一人スタジオの運用が、同じ形をしていた。
共鳴2: 「Claudeたちのマネージャーを管理する」
Labs teamのIgor Kofmanは、未来をこう予言する。
“We’ll get to the next level of abstraction, where you’re not managing a bunch of Claudes—now you’re managing the Claudes’ manager.” 次の抽象化レベルに到達する。Claudeの群れを管理するのではなく、Claudeたちのマネージャーを管理する時代になる。
その「次」は、ここでは現在形だ。
16体は平場に並んでいるのではない。統括役のAIがタスクを受け、適任のAIに振り、成果を検収して報告してくる。人間がやるのは、マネージャーとの対話と最終判断だけ。
実装の詳細は書かない。ただ、階層で運用するという発想自体は、規模がなくても到達できる。必要なのは資本ではなく、道具と暮らした時間だった。
共鳴3: Reactの教訓と「カテゴリなし」戦略
React出身のAdam Wolff(Claude Code初代マネージャー)の証言が、一番遠くから効いてくる。
“It was a logo and a brand and a feeling, much more than a computer science idea.” 100万DAUを超えた頃には、Reactは別物になっていた。計算機科学のアイデアというより、ロゴでありブランドであり、感情だった。
スケールしたプロダクトは、思想を超えて「感じ」になる。Wolffは、Claude Codeも同じ道を辿ると言う。
届いた先で残るのは、機能ではなく感情だ。
ANDOORが「制作会社」とも「クリエイティブブティック」とも名乗らず、カテゴリを捨てて「空気で伝わる」状態を設計しているのは、この認識と同じ場所から来ている。作り手の意図した分類は、届いた先では消える。残るのは体験の質感だけ。
Reactを作った人間が製品史から抽出した教訓と、ブランド設計の実感が一致した。
フロンティアは規模で決まらない
Ben Mannの証言に、この読後感を要約する一節がある。
今20〜30%しか動かないものを作るんだ。次のモデルが出たとき、それが80%動くようになる。
未完成の道具に先に住み、モデルの進化を待ち構える。Claude Codeのチームは社内でそれをやり続けた。だから勝った。
同じことは、外側でもできる。毎日道具の限界に触れ、詰まり、回避策を組み、次のモデルで報われる。この繰り返しに会社の規模は関係ない。
フロンティアとの距離は、組織の大きさではなく、道具と共に暮らした時間で決まる。
前に書いたNadellaの話とつながる。学習は委託できない。道具の中に住み込んで積んだ判断の履歴だけが、次のモデルが出た瞬間に複利で効いてくる。
所感
「未来を予測する最良の方法は、それを発明することだ」という使い古された言葉がある。
今回の実感は少し違う。未来は予測するものでも発明するものでもなく、先に住むものだった。
作った側の証言を読んで答え合わせができる位置に、既にいた。それが分かっただけで、この一次資料を読んだ価値があった。
原文はAnthropic公式サイトで公開されている。AIと働く人間は全員、読んだほうがいい。